画家と語る6

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  唄うように描きたいのね、最後の仕上げは。(3部作の)真ん中の人物―これでもう充分美しいもんだからなかなか手が着けられないね。一度、全部を壊さなきゃいけないけど、なかなかね。後何日あるかな、2週間ちょっと、ウーン。毎日やらなきゃね―大作は体力が要るからねー。いつも画家はゆっくりした自分のリズムでやっているが、ここ23日少し焦っている。自分でも言っている「ちょっとあせるな~」。

  午後は絵描きの話し。昨日はゴーギャン。ゴーギャンは物語性に行っちゃったのね、絵画性が問題なのに。それをしっかりやったのがマティスね。本当に良く考えてイヤというほどやっているよ。マティスはゴーギャンの友達にずいぶん彼の絵を見せてもらったらしい。おそらくゴーギャンの影響もずいぶんあるんだろうね、しっかり勉強している。でも、マティスは絵画性を追求した。ゴーギャンは説明的、物語性に行っちゃった。貧乏もいけなかったんだろうね、貧乏はいけないよ。

  ヨーロッパに居て良いのは午前中絵を描いていて、他の絵が見たくなったらフラッとルーブルやオルセーに出掛けて行って見たい絵の前に立って帰ってくる、それが出来ることね。それが大事。92年にパリで描いてた時は絵が上手だったもの。やはり刺激があって自分ならこう描くと思ってカンバスの前に戻ってやる。これが出来る。

  多分体調のせいもあって今朝はあまり機嫌が良くないまま始めた3部作、決心をして人物の部分に取りかかった。気に病むほど気にしていた部分だからエイヤッと始めたに違いない。先ずは全体の空と海の青。ウルトラマリーンライトエクストラを大きな筆で大きなストロークで描き、中心の人物は今食べたパパイヤのオレンジ色と赤。決断のある筆使いの小気味よさ。「本当は色っぽくしたいところだけどね。」  何かしら異様さがある、それも大事な事。異様さ―傑作の必要条件。どこかの壁にかけた時、初めはドキッとするような絵、それは大事。ああ、良く合っているね ぐらいじゃしばらくして取り外しても多分気が付かない。あれっここに何かあったはずと思うくらい初めは気になるようでなきゃ。僕の絵には異様さはあるね、傑作かどうかは別にして。  一気にやって一息ついた、いつものように絵具のチューブを整えながら話す。輝くように描きたいのね。ただのモダン絵画じゃダメ。工芸じゃダメ。馬鹿じゃダメ。さあ、悪口が出始めた、もう大丈夫。

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  今、幸せか不幸か―1枚の画面がどうしても納得がいかなくて悩みに悩んでいる時、それが解決して「分かった」と、描き進める時、不幸な気持ちから一転幸福な気持ちにすり替わる。絵描きというのは金が目的で描いているんじゃないから、絵を描くこと以外考えるのは金の事だけ。今は、バリで描いていて日本でお金を作る、帰る日が近くなるとどうしてもそれを考えざるを得ない。今回日本での計画は、油津レンガ館の個展と太陽銀行、、、、さて、、、

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  余り調子が悪いのでいつもの昼のアルコールを止めてみる。諸悪の根源はこれだったらしい。でも、夕方には「ウィスキーの匂いのする水」を一杯。天気が安定して来て気持ちが良い、体調が良ければ機嫌もいい。

  100号の太陽の絵、背景がどうも自然でいけない。右上のみどりが問題だな、青にするべきか。大きな水色の紙を切って当ててみる。ブルーコンポーゼで塗る―OK。以前に描いたように赤なら問題はないけど「もう一枚別の絵」はもっと考えなくてはならない。もっと良くするために。

  3部作、背景の青はもう何度重ねたのか、「このチューブを全部使ってしまおう」。 大地の部分にゴールドオ―カーを重ねる。太陽、タミアンを輝く色にする。人物にはフレンチバーミリオンが欲しいが手元にない。他の色を使ってみるが、やはりフレンチバーミリオンが気になる。もう1度木炭でデッサンし直した部分にフィキサティフをかける。この上に又色を塗る。この繰り返しを何回もやる。薄塗りは、その時はきれいなんだけどもたないものね。後で見ると貧しい感じがして。やはり何べんも塗って何べんも壊して。  時間が足りないね、1度冷やしてもう1度やるというこれが大事なんだけど。3部作だから1枚ずつやって3枚並べてみてまた1枚ずつやって。大作は疲れる。23年前は何とも思わなかったのに、、、年というやつは。マティスも僕と同じ年でちゃんと脚立に乗ってやってるね。ピカソのゲルニカもその頃か。大作をやるのが一番気持ちに合うと言っていたが、段々体力が追いつかなくなるのか最近は40号、60号が丁度良いと言っていたところへ、今はまた1202枚と1002枚を同時にやっているのだから、体調を壊してもしょうがないと言えばしょうがない。